文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*「〈才能のある子の指導・支援〉に関する有識者会議」と個人的に略称する。「才能のある子」は、個別プログラムで識別された才能を基準に選抜・認定される狭義の「才能児」とは区別され、また「突出した才能」あるいは「困難を伴う才能児」に限定されない、広義の“gifted”に相当する。有識者会議でも、「特異な才能のある児童生徒」は、広い意味での才能のある子を指すことが「審議のまとめ(素案)」で確認された。
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第13回会議(2022.09.08)(会議資料)
①教育委員会関係団体からのヒアリング

今回はまず、以下の教育委員会関係団体からのヒアリングが行われた(資料1~6)。
▽全国都道府県教育委員会連合会(安田浩幸先生)  ▽全国市町村教育委員会連合会(田邊俊治先生)  ▽指定都市教育委員会協議会(三木信夫先生)  ▽全国都市教育長協議会(堀真朋先生)  ▽中核市教育長会(中田知邦先生)  ▽全国町村教育長会(夏刈一壽先生)
 特異な才能のある児童生徒の指導・支援の在り方に関して、「審議のまとめ(素案)」に対する各会からの意見が簡潔に示された。

②「審議のまとめ(素案)」に関する意見募集の結果について

続いて、「審議のまとめ(素案)」に関する意見募集(7/27~8/15)の結果をまとめた資料が示された(資料7)。 提出された全ての意見の数は、280件であった。 「全体」「はじめに,1.現状,2.課題」「3.基本的な考え方」「4.今後取り組むべき施策」の項目ごとに代表的な意見が列挙された。 末尾にまとめられた「子供たちから提出された主な意見の概要」は、昨年のアンケート結果と呼応して、痛切な訴えが感じられる。

③2023年度概算要求資料

8月に文部科学省初等中等教育局から出された「令和5年度 概算要求主要事項 」のp.33に当たる文書パネルが示された(参考資料:特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進)。 「審議のまとめ(素案)」に沿った方針で事業内容の内訳を設定して、総額113百万円を新規に要求・要望している。

▼コメント

以下に、私が会議で短く意見を述べた問題に絞って記す。

①教育委員会関係団体からのヒアリング

「特異な才能のある児童生徒」(以下、才能のある子)を判断する明確な指標が必要だという指摘があった。 この問題について、私は繰り返し論じてきた(第12回コメントを参照)。 才能のある子は、国が特定の基準で一律に定義して判定するべきではなくて、学校内外の特別な個別プログラムを実施する際に、その実施主体が目的・必要に応じて個別に決めることになる。 これは難関校の入試の合格基準でも同様だ。プログラムによっては(例えばジュニアドクター育成塾などでも)、人数・資源の制約のために、最初は先着順や抽選で対象者を決めることもある。 一方、ふだんの教室での授業では、個別最適な学びの中で、教師は才能のある子を選り分ける判断はしない。 例えば個性化教育の単元内自由進度学習や自由研究学習などでは、才能のある子も適合した学習方法・内容を自分で選べる。 そうすれば教師の負担増なしに、子どもの優れた点や困っている点にもっと目を行き届けられる。 クラスに1、2名いるかもしれない「困っている才能のある子」への対応は、簡易な質問紙等を手がかりに教師が特性を知り、連携した支援の場に繋ぐことができる。 これらの実践モデル例を、研修などで発信する必要があるだろう。

②「審議のまとめ(素案)」に関する意見募集の結果について

高IQ児を「特異な才能のある児童生徒」として指定すべきだという意見が依然、散見された。 しかしこれは、特定の基準による一律的な定義・線引きの問題点がよく理解されず、個別の特別プログラムで必要な基準との混同が感じられる。 高学力の中高一貫進学校は独自の基準で入学選抜して、結果的に高IQが推定される生徒が多く集まるが、IQで集めたのではないし全員のIQをわざわざ確認しない。 この問題も含め、他の諸概念や論点についても、今後も誤解や無理解を招くだろうが、「審議のまとめ」では詳しい説明は増やせない。 別途、「審議のまとめ」の解説書の性格のものが必要になり、それは今後の周知・研修の中で説明されるべきだろう。