文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議
文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
今回は、「有識者会議論点整理」の「今後議論すべき論点」として、「学校外での対応策」(学校外の学びの場の充実)について議論された。 発表者として、①まず委員の今村久美先生(NPOカタリバ)が、②次に愛媛大学教育学部教授・隅田学先生が発表された。
「GIGA前提時代だから実現できる誰一人学びから取り残さない公教育へ:シェア型教育支援センターの実証報告」という表題で、今村先生は、不登校の児童生徒へのオンラインによる支援の取組について話された。 日本の不登校の児童生徒の実態と、背景の深刻な課題に触れた上で、NPOカタリバの「オンライン教育支援センター(未来の教室実証事業)」について、具体的活動や事例を交えて紹介された。
「全国の特異な才能をもった子どもたちが輝く教育」という表題で、隅田先生は、①ジュニアドクター育成塾、②グローバルサイエンスキャンパス(GSC)、③愛媛大学キッズアカデミア(KIDS ACADEMIA)、④愛媛大学附属高等学校における高大連携について話された。 ①はJSTによる科学技術人材育成プログラムで、「才能を伸ばす」取組として、小中学生を対象に全国30の大学や高専等(2021年度)で実施されている。 ②はJSTにより小中高校生を対象に全国14の大学等で実施されている。 ③は、年中~小3生を対象に10名規模で科学教室等が開催されてきて、2021年からオンラインで実施されている。 ④は、附属高校はWWL拠点校(2020~)および高大連携を活かす文科省研究開発学校(2021~)として、大学から高校生にオンラインで指導等を行う。留学生との英語交流等、国際交流も行う。
以下に、私の会議での発言関連に基づいて記す。
前回の広島県の不登校SSRの取組についてのお話では、SSRに通う「才能のある子」の存在は把握されておらず、才能のある子を意識・特化した支援は行われていない(第7回会議コメント参照)。 「浮きこぼれ」の子(不登校の才能のある子)は、実態調査でも捉えられなかったように、学校や教育支援センターに戻るのは難しく、外部の居場所が適合する場合が多そうだ。 才能のある子が教育支援センターへ、さらには教室へ行きたくなるためには、どのように個別最適な学びや学習・社会情緒的困難に配慮した、才能のある子に魅力的な支援を提供できるかが課題となる。 才能のある子が行きたくなる教室は、前回発表の天童中部小学校の取組に見られるような、学校内の個別最適な学びから創って行かれるだろう。 一方、才能のある子が行きたくなる教育支援センターの改善には、浮きこぼれの子に関わる外部機関・団体からの提言が有用になることが考えられる。
カタリバでは、不登校の児童生徒へのオンラインによる学習および社会情緒的支援が個別支援計画に基づいて行われ、幅広い取組を展開している。 自治体とも連携して、広島県教委との連携では、SSRの教員による家庭アウトリーチと連携した支援として、誘い出しのステップの手法を工夫して支援の充実につなげようとしている。 別地域だが、オンライン相談から教育支援センターに橋渡しして、通所に向けて調整している事例も報告された。 今回は才能のある子だけをまとめた実態や支援については述べられなかったが、浮きこぼれの子への支援情報は多く蓄積されているはずで、学校外の有効な取組から示唆される教育支援センターの改善案を、エビデンスに基づいて提言できると期待される。 この点も含めて、才能のある子に着目した学校外の機関・団体と学校・教育支援センターの連携の体制作りのモデルを示すのが有効であり、文科省の人的・財的支援が必要になるだろう。
「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021.3)で、教育・人材育成の目標として、突出した意欲・能力、「出る杭」を伸ばすことが明言されたのを皮切りに、CSTIの会議では「異能」や「ギフテッド」、「Gifted」など用語が混乱したが[第6回会議コメント参照]、一貫して突出した才能のある人材育成を目標としている。 これは同会議の性格上、もっともなことではある。JSTによるSSHやGSC、ジュニアドクター育成塾、科学技術コンテストなど科学技術人材育成プログラムでは、「トップ人材育成」が目論まれている[第1回会議・会議資料>資料5私の発表資料参照]。そして「トップ人材育成」と「裾野の拡大(興味関心の喚起)」プログラムは連携する取組として構想されている。 キッズアカデミアは、JSTの次世代人材育成事業の枠組み内での「トップ人材育成」に直接繋がる「裾野の拡大」として開設されたのではないが、年少者の知的好奇心を科学的探求・思考へと高め、才能の開花を目指すプログラムの中から、未来の科学者という優れた科学技術人材も成長することが期待されている。
一方、有識者会議のスタンスとしては、既に「論点整理」等で確認されたように、突出した才能のある子に特化した新たなプログラムは提案しない。 ただし、学校内の個別最適な学びの取組の中で、優れた才能のある子への指導の個別最適化を一層進めるために、既存の学校外プログラムとの公正な連携の在り方を検討する余地はある。 個別の特別プログラムは、内容・方法的には優れたものも多く、参加者にとっては楽しく好ましい学習環境だろう。 しかし社会との関係の観点から捉えると、学校がそれらの特別プログラムと連携する際に、次のような配慮すべき点が課題として残るだろう。 ①参加者のレディネス(能力・意欲)に家庭の教育格差(経済状態、保護者の教育意識等)が反映される。 ②個別のプログラムで、障碍を併せもつ子どもの公正なアクセスに十分配慮されていない。 ③特定の少数の実施機関、限られた地域、限られた収容人数では、全国の児童生徒全体から見れば公正に開かれていない。 一方、これら特別プログラムの数、規模が拡大して参加者が増大すれば、参加前から修了後まで、受験競争に一層利用され教育産業が介入して教育格差の増大を招く等の、別のネガティブな問題が生じる懸念もある。