文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第7回会議(2022.02.16)(会議資料)

今回は、配付資料1-2「有識者会議論点整理(概要)」の「今後議論すべき論点」表に対応して、「教室・学校内での対応策」(学習活動・学校生活の困難への対応)について議論された。 ゲストの発表者として、①まず天童市立天童中部小学校・校長の大谷(おおや)敦司先生が、②次に広島県教育委員会事務局・学びの変革推進部・個別最適な学び担当・不登校支援センター・ センター長の蓮浦顕達先生が発表された。

①天童中部小学校の「主体性に配慮した学び」について

「子どもの主体性に配慮した学びを創る」という表題で、大谷先生は、山形県天童市立天童中部小学校の取組について話された。 「マイプラン(MP)学習」(単元内自由進度学習)や「フリースタイルプロジェクト(FSP)」(自由研究学習)を通じて、子ども主体の学びの授業が行われている。 学校内で「才能のある子」[才能が識別された「才能児」と区別した私案表記]への指導・支援の基盤となる優れた取組例を示された。

②広島県の不登校SSR推進校への支援について

「不登校等児童生徒への支援の充実に向けて」という表題で、蓮浦先生は、「不登校SSR(スペシャルサポートルーム)推進校」の取組について話された。 SSRは県下の小学校6校、中学校14校に設置されている(2021.9現在、183名利用)。 通常の教室への復帰を前提とせず、居場所・成長できる場であることを目指す。SSRでは、環境整備、個別のサポート計画の作成、学習支援等が行われ、オンラインプログラムも活用される。

▼コメント

以下に、私の会議での発言関連に基づいて記す。(上記と逆順で述べる。)

②広島県の不登校SSR推進校への支援について

SSRは不登校の児童生徒にとって、学校内でも教室とは別の居場所・学びの場となり得るので、設置・活用の展開が期待される。 ただし、SSRに通う「才能のある子」の存在は把握されていないそうで、才能のある子を意識・特化した支援は行われていない。 有識者会議のアンケート調査で浮かび上がった「才能のために授業が易しすぎて苦痛」等で不登校になった子どもは、文科省の「不登校児童生徒の実態調査」(2020.12)では全く表面化しなかった。 後者の調査対象者は「学校に登校または教育支援センターに通所」の本人(小6・中2)と保護者だった。「浮きこぼれ」の子は、SSRにも来られず、学校外のフリースクールなどがより適合する居場所になる場合もありそうだ。 引きこもり等の問題も含めて、不登校支援センターをハブとした、オンラインも活用したネットワークで、才能のある子の学習・社会情緒的困難に配慮した支援が推進されることが、今後の課題となるだろう。

①天童中部小学校の「主体性に配慮した学び」について

[1] 「才能のある子」への指導・支援は、個別最適な学び・協働的な学びの一環として包摂されることを、 天童中部小学校の取組は、具体的モデルとして示している。 全ての児童が「主体性に配慮した学び」を行うことで、才能のある子への指導・支援も、別枠の特別プログラムではなく、インクルーシブ(包摂的)に行われている。 アメリカの才能教育では、多様なプログラムがあっても、学級での「拡充」がベースになる。 天童中部小学校の取組は、SEM(全校拡充モデル)のように、学校全体で取り組む拡充モデルと理念・方法の共通点がある。 例えば、FSPでの成果発表は、「タイプⅢの拡充」に当たるが、他の子には新しいテーマ導入の「タイプⅠの拡充」につながる。 その中で特定領域にまさに「特異な才能」も包摂して、「その子らしさが浮き上がってくる」(大谷)。これは、SEMについてレンズーリの言う、「上げ潮でどの船も浮き上がる」という理念と響き合う。

[2] 「才能の見出し」は、子ども自身が行えることを示している。 「主体性に配慮した学び」では、子どもは、自分で興味・能力・スタイルに合う、学びの内容・方法を主体的に見出し、「自分でも気づいていなかった自分に出会う」(大谷)。 すると、才能の見出しとして、予め才能特性をスクリーニングで識別する必要がない(才能特性の識別を個別の目的のためにどうやるかは別の話)。 才能を識別して、「これができるはずだ、このやり方が合うはずだ」と教師が指示するのではなく、子どもが主体的に学ぶ力、大人になっても「生きる力」を養える。

[3] 学習困難や障碍のある子も共通に、「主体性に配慮した学び」でうまく学べることを示している。MP学習やFSPで、特別支援学級の児童も主体的に学べている。 主体性への配慮が、学習困難や障碍のある子にも共通して有効であることから、特別支援教育で、「才能と障碍を併せもつ子ども」への支援の新しい手掛かりが示唆される。 つまり、「特異な才能のある児童生徒」を予めラベル付けないという有識者会議の確認方針から、必然的に「2Eの児童」を予め特定する必要がない(広義の2E教育として行える)。 有識者会議でも今後の議論になるが、特別支援教育で、才能や発達障害などの2Eへの位置づけ等について文科省の今後の検討を待たなくても、「才能と障碍を併せもつ子ども」もインクルーシブに、才能に応じた指導・支援ができる。 ただし誤解されてはいけないが、主体性への配慮と同時に、障碍特性に応じた合理的配慮などが必要な場合もある。

[4] 才能のある子への指導・支援を包摂する個別最適な学び・協働的な学びの早期充実の推進が求められる。 才能のある子への指導・支援を包摂する理念で、個別最適な学び・協働的な学びの充実は、天童中部小学校のような「個性化教育」の流れを汲む実践や、「授業のユニバーサルデザイン」など、実績のある実践をモデルとすれば、今後予定されている教育課程の在り方の見直しを数年以上待たなくても、どの学校でも開始できる可能性がある。 そこで、既に各地で多種の実践を進めている学校を、文科省が研究開発校などに指定して、予算を付けて支援事業を行うことが望まれる。そうすれば、教師の負担増にならないような、様々な新しい取組方法を開発して、実践モデルをウェブ等で研修用に情報発信できる。 そして新規に取り組む学校にも、文科省が少しずつ予算を付けて、教育委員会の応援があれば、全国で取組が広がるだろう。

[補足] 「子ども主体の授業が2割では、ギフテッドの子は残り8割の一斉授業で退屈だろう」という保護者の疑念の声も「NHKハートネットTV」での同校紹介に対して聞かれた。 しかし大谷先生によれば、2割は児童にとって「疲れない」適当な割合で、一斉指導(仲間と教師で創り上げる授業)までも児童の関わり方が主体的に変わる。 これは高いOE(超活動性)の才能のある子にも当てはまると感じられる。 また教師の負担増の懸念について、MP学習の10時間以上を一気に準備するのは骨折りでも、教師同士の協働で行われ、全体を均すとむしろ負担は減るそうだ。