文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議
文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
第5回会議で検討された「論点整理(たたき台)」について、委員の意見を汲んで修正された「論点整理(案)」が出された(資料1-1&2を参照)。 内容・表記に関する今回の会議での意見を勘案して、12月17日に「論点整理」が公表された(こちらに)。
論点整理(案)の「4 今後議論すべき論点」に関連して、今後、より掘り下げて議論を行うべき具体的な施策のイメージを巡って、いくつかの意見が出された。
以下に、私が会議で述べた意見に基づいて記す。
[1] 「ギフテッド」の呼称:「はじめに」の脚注で、本有識者会議では「ギフテッド」という呼称を用いないことを明言したのは重要である。 英語の最も広い意味の"gifted"に対して、「ギフテッド」は一般に論者によって「突出した才能」あるいは「困難のある才能児」という異なって限定された意味をもち、会議等では混乱して一般の誤解も招く。 例えば先月のある週刊誌は、本有識者会議を「ギフテッド支援のための」と表し「ギフテッドは神童に近い」と述べた。 CSTIの教育・人材育成WGの資料(2021.12.07)では用語が以前に増して混乱して、「ギフテッド、特異な才能、突出した意欲・能力、Gifted、Gifted & Talented」が混在!「ギフテッド」の使用は一般に否定・禁止できる訳もないが、限定する対象が混在したまま議論すると混乱する。 ただし、そのコミュニティで対象が明確なら、「突出したギフテッド」あるいは「困っているギフテッド」の<略称>だと合意していれば問題は減少される。 CSTIでも「突出したギフテッドを本会議ではギフテッドと略称する」と1箇所で断っておけば「ギフテッド」で一貫して差し支えないだろう。(因みにアメリカの才能プログラムでは個人への"gifted"の呼称は避けられる傾向にある。) なお、CSTIのWG「中間まとめ」(2021.12.24)では、案にあった「ギフテッドの可能性のある」が「特異な才能のある」に書き換えられたが、「Gifted」の表記とそれが「IQ130以上」という解釈はそのままで、「特異な才能」をあくまで単一指標で表せる「突出した才能」に限定して捉える姿勢は変わらない。 その点、この有識者会議では「特異な才能」の用法は明解で、突出した才能に限定せず、何らかの基準で予め定義しないで、困難の有無に関わりなく広く用いる。 欲を言えば「特異な」も要らないが、会議設置等の経緯でやむを得ない。
[2] 狭義の才能教育プログラムの留意点:才能の基準によって対象者を選抜するプログラムを実施する際には、受験にまつわる弊害の可能性を認識すべきだという警鐘を置いたのは有意義だ(3(1))。 特別プログラムへの参加がステイタスになり、それ自体が目的化され、そのための準備や特別入試等に利用される。 親の期待も重圧になる。そういう新たな受験競争、経済格差を招く危険の可能性は十分認識されるべきだ。
[1] 授業における教材や指導方法の工夫:個別最適な学び・協働的な学びの一環として、才能児も含めた教室ベースの拡充の可能性を探れるが、そのために、教師の負担増のない取組の研究開発を行う指定校・協力校を設けるような方策を検討する。 あるいは天童中部小学校のように、既に各地で草の根的に実践を進めている学校に、国・地方行政が支援して、洗練された実践をモデルとして、ウェブ等で全国の関心のある教師に公開して実践を広げる。 新規に学校が自発的に開始しても、国・地方行政の後押しがあれば取組も増えるだろう。
[2] 学習・学校生活での困難への対応策、学校外の学びの場の活用:才能特性がきっかけで不登校になる児童生徒が少なからずいることは、有識者会議アンケート調査でも分かったが、他で行われた調査では、教師には全く認識されていない(不登校に関する調査研究協力者会議)。教師の認識ではなく、本人や保護者の意識を綿密にアンケート調査する必要がある。 学校や教育支援センター以外の、オールタナティブ・スクールを通じて、本人や保護者に調査への参加を呼びかけ、回答は個別にオンラインで行う等の手法で、個人情報を保護しながら回答者の属性を含めたデータが得られるだろう。
[3] 才能と「障害」を併せ有する場合の対応策:2E教育について議論を掘り下げる必要がある。 論点整理では「学習困難」で括られたが、発達障害の位置づけも明確にすべきだ。 教室ベースの拡充では、才能や障碍を特定しないでも、子どもが主体的に最適な学び方を選択できるような学校内外の環境整備が望ましい。 一方、特別支援教育から見ると、2Eの障碍が適切に診断されるなら(才能特性が障碍特性だと誤診される場合もある)、才能と併せて障碍面への適切な支援が必要になる。 ただし、2E児を特別視して新たに2Eプログラムを設けるところから出発すべきではない。 実証的研究で好事例を蓄積するという観点から、①通常学級では、才能児・2E児を含めながらも才能や障碍の有無を問わないで、全ての児童生徒の個別最適・協働的な学びを進める。②通級指導では、障碍のある子どもの才能面を活かす取組を行う。これらの研究開発を行う指定校・協力校を、国や教育委員会が予算・人材リソース含めて支援する。 教育委員会・学校関係者の理解啓発のために、教員研修用ハンドブックが作成され、事例や方法と理論の説明も詳しく述べられる。そのような方向に踏み出せることが望まれる。