文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第5回会議(2021.11.29)(会議資料)
①論点整理(たたき台)の案について

有識者会議の中間報告の性格をもつ「論点整理」が12月に出されるが、その「たたき台」(原案)が公表され、会議で検討された。 「特定分野に特異な才能のある児童生徒」について、その現状、指導・支援の課題、検討の方向性、今後議論すべき論点がまとめられた。 (資料2を参照。)

②有識者会議アンケート(教育委員会対象)結果

先に実施された「特異な才能のある児童生徒」の本人、保護者、教師等対象のアンケートとは別に、教育委員会対象に「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する教育委員会が行う支援等に関するアンケート調査」が、8/27~9/24に実施され、結果の概要が公表された。 504教育委員会から回答が得られ、支援策「有り」と回答した教育委員会の数は30であった。自由記述の回答の代表的なものの一部が抜粋・分類され示された。

実施されている支援策は、プログラムの提供、イベントの開催・紹介、補助金や奨励金等の支給に分類された。 一方、支援策の実施が困難な理由や実施に必要な条件として、対象児童生徒の見出し・認定(基準が不明・必要)、人材・予算の確保、組織体制(必要・見込み不明)、指導・支援の方法(立案の困難)、専門性を持った人材の養成・育成(未実現)、外部機関との連携(必要)、関係者・地域社会の理解(必要)、公平性(観点から支援困難)等に分類できる回答が見られた。(資料1を参照。)

▼コメント
①論点整理(たたき台)の案について

「検討の方向性」の一つに、個別最適な学びの在り方を踏まえ、「本会議では、IQやテストの得点といった一定の特別な基準によって選抜された子供たちに対して特定のプログラム等をいかに提供するかといった視点ではなく、一人一人の子供に応じた教育の在り方をいかに実現していくのかということの延長線上に、特異な才能のある児童生徒への支援策を考えていくことを基本的なスタンスとして検討をすすめていく」と述べられた。この思慮深い宣言は、日本型才能教育が困った方向へ逸れていくことの歯止めになれるだろう。

才能の定義は、諸外国の教育法・政策指針では大綱的に規定されているものであり、才能の識別基準(例えばIQ130以上)を含める定義と混同されるべきものではない。 才能児を知能や学力で上位何%かの者と定めれば、残りの大多数の者は「非才能児(non-gifted)」に当たるため、わが国では才能の定義として望ましくない。 教育行政の指針では「才能の三輪概念」に倣って「通常より優れた能力または創造性、強い意欲・熱中」のような大まかな規定に留め、実践プログラムで必要な場合のみ、才能識別基準を個別に定めるのが、穏当な方策であろう。 狭義の才能教育として才能児を認定してから特定プログラムの対象にするのではなく、広義の才能教育として通常学級ベースの「個性化教育」によって、公立学校内で教師の負担増なしに、全ての児童生徒の拡充が可能になる。

ギフテッド保護者団体が切望している「困っている才能児」(2E・GDF・不登校)への支援については、明解な表現を敢えて避けているが、「学習活動に関する困難や学校生活に関する困難」の解消、「才能と障害を併せ有する場合の対応」など、対応策が今後の検討課題として盛り込まれている。 現時点では、文科省内の事情もあり、この文書では発達障害という表記さえないが、2022年の有識者会議の進展が期待される。

②有識者会議アンケート(教育委員会対象)結果

支援策「有り」と回答した教育委員会は、回答数の約6%だが、全国の1,800以上の教育委員会に依頼したので、支援策有りと明確に言える比率はさらに少ないだろう。「特異な才能のある児童生徒」への支援について尋ねられると、何とも答えにくいのももっともである。 「個別最適な学び」について尋ねたら、はるかに多くの回答例が得られるはずで、多様で程度の異なる指導・支援の有無を綿密に尋ねると、その中で才能への支援の存在も浮かび上がるだろう。 諸条件が整って工夫して支援を行っている地域もあり、どんな支援の理念、方法、財的・人材資源の見通しが確保示されれば可能になるのか等、今後の検討の手掛かりになる。実施困難な理由に、具体的にうまく行く実践モデルのイメージが乏しいことも回答から見て取れた。 例えば、第2回会議の奈須先生発表で紹介された、天童市立天童中部小学校の個別最適な学びと協働的な学び(自由研究学習や単元内自由進度学習)の例などが示されれば、多くの教師・学校の関心が高まるだろう。