文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第4回会議(2021.11.01)(会議資料)
①有識者会議アンケート結果

8/26~9/17に実施された有識者会議のアンケート調査の結果について、教育課程企画室から「まとめ」の説明がなされた。 808名の回答者から980の事例が得られた。具体的な事例 の一部を抜粋して(特定の基準はない)カテゴリー別に回答の一部がそのまま挙げられた(資料1参照)。 結果について要するに何が言えるのかを明確にするために、小学生の保護者494名の回答について私が分析して、その結果と考察を5分間で報告した(資料2参照)。

②学校外の機関の先進的な取り組み

特異な才能への対応を含めて個別最適な学びの在り方の検討に資するために、最近着手されている学校外の機関の先進的な取り組みが紹介された。

福本理恵委員(㈱SPACE CEO)は、「「個才」の時代」と題して、まず自ら統括してこられた「異才発掘プロジェクトROCKET」での、才能と学びの多様性について話された。 そして新しく設立されたSPACEで、「異才から個才へ」という理念の下、データサイエンスを活用して、必ずしも異才でなくても子どもの興味関心・特性と地域リソースとのマッチングにより、探求学習やキャリア教育等での個別最適な学びの環境創出だけでなく、地域創生の実現も目指すことが述べられた。

中島さち子委員(steAm, Inc. 代表)は、「steAm などの活動紹介:多様ないのちが輝く社会に向けて」と題して、自ら率いてこられたsteAmの多彩な活動を紹介された。 高校等と連携したSTEAMの学びや遊びでの多様な探究を通じて、多様な価値創造の喜びが支えられることなどを述べられた。

▼コメント
②学校外の機関の先進的な取り組み (以下、上記と逆順で述べる)

福本先生の「異才から個才へ」というコンセプトは、日本の才能教育の観点からも望ましい方向にある。 ROCKET本体も今年から突き抜けた才能に特化するのを止めて、別の名称(LEARN)で再出発した。 「個才」は私の言う「認知的個性」に通じる概念で、個人の興味やスタイルなどの特性を把握した上でプログラムを実施できる。 学校と連携して個人の特性情報を共有することは、実現可能な狭義の才能教育の基盤にもなるが、新たな優劣のラベルに誤用されない用心も必要となるだろう(思考スタイルは好みの違いで、特定状況への適合性はあっても善し悪しはない:『才能教育・2E教育概論』参照)。

中島先生の、多様な探求を通じて「本物の学習」の喜びが生み出される取り組みは意義が大きい。 STEAMと称しながらSTEM偏重の実践とは異なり、アートを活用して多様なSTEAM教育の可能性が開ける。 特定の外部機関との連携は、指定校や教師が関心をもった学校に限定され、他の学校の生徒には不公正な状況にもなる。 それでも「数理女子ワークショップ」のように、生徒個人がネットで情報を得て興味をもって参加するという個別のルートがある場合、どの学校でも教師が生徒の才能にアンテナを張れば、才能を見出し尊重する契機になれるだろう。

①有識者会議アンケート結果まとめ

資料1の回答例も、私の結果分析の数値等も、結果の一部が切り取られて伝播し、誤解を招いてはいけない。 そのため、会議での私の付加的説明を記す。「資料2」のスライドと付き合わせてお読み頂きたい(数字はスライド番号)。

【2】特異な才能の表れとして、多様な才能行動が挙げられたが、その中で「突出した才能」を抜き出した。 これはここで暫定的に高IQや数学年上の学力など、明確な指標で言及されたものに限定したことに注意。 明確な指標では表せない優れた才能も多くあるので(低年齢のエピソードからその後の発達を予測できないが)、才能の定義として、例えば「IQ130以上の上位2%ほどの子ども」を「ギフテッド」とラベル付けして、残り98%の「ギフテッドでない子ども」と区別するのは好ましくない。

【3】それでも突出した才能を暫定的な基準で抜き出すと、回答の約半数に、突出した知能や学力、技能が見られた。

【4】学校で「才能が原因となる」困難を分類した。典型例として、学習面:授業が簡単すぎて退屈、苦痛だ。 対人関係:友だちと難しい話が合わない。教師の対応:才能を理解してもらえず、発言・質問を無視・否定される。 一方で、教師が子どもの興味や能力を理解して、個別の配慮など、才能への支援をしてもらえたという回答も。教師も困っているというジレンマの状況があるだろう。

【5】学校での困難には、「才能による困難」が結構あるということが広く認識されるべきだ。 これは本人や保護者には当たり前だろうが、一般にはよく理解されないことも多く、不登校など、さらに困難を招くこともある。

【6】才能児個人をタイプ分けした。障碍特性にも言及した回答を暫定的に「2E」として、2E以外で才能による困難に言及したものを「GDF」とした。各々に「突出した才能」が半数ほど見られた。

【7】才能と併せて障碍特性でも困っている子どもが3割ほど見られた。GDFは6割ほどで、GDFだと自己認識すれば納得できる人も結構いるだろう。 障碍の有無に関わりなく「才能で困っている」子どもの半数に「特異な才能」が見られたのは、注目すべきだ。

【8】「ギフテッド」という呼び方は、一般的な傾向どおり、一つは「高いIQ」、もう一つは「多様な種類や程度の才能があり、才能による困難がある」という意味合いだった。 CSTI(総合科学技術・イノベーション会議)では、トップ人材育成を目指して、「特異な才能がすなわちギフテッドだ」と見なして、それは「IQ130以上、上位2.3%、それなら小学校35人学級で0.8人」などと仮定して議論されている。 この有識者会議では、「ギフテッド」を語るなら、それはそのようなごく少数の子どもなのか何なのか、意味を明示すべきだ。 不登校への言及が、3割近く見られた。不登校でなくても、不協和感をもちながら、学校に合わせている才能児もいる。 現在、文科省の「不登校に関する調査研究協力者会議」が開かれているが、そこで報告された調査結果では、不登校の切っ掛けとして、今回分かったような、才能による困難は浮かび上がっていない。 今後広く、議論の高まりや調査が待たれる。

【9】今回、ギフテッド保護者団体からも多く回答が寄せられた様子で、突出した才能や才能による困難が多くの子どもで見られたのも尤もだ。 そのような才能児は全体から見ると、私の推測では数%かと思われる。 それでも保護者が期待する支援には、本人や保護者が痛切に求めている場合もあるので、教師が負担増なしでできる工夫から必要な制度改革まで、また外部機関との連携の在り方の検討など、少しでも応えられる提言を目指す必要がある。