文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第2回会議(2021.08.26)(会議資料)

中教審答申で謳われた個別最適な学びや協働的な学びの一体的な充実等について、答申の議論に関わってこられた那須正裕先生と市川伸一先生からの発表があった。

那須先生は、指導の個別化と学習の個性化について、1980年代から現・日本個性化教育学会が実践を積み重ねてきた「個性化教育」について、愛知県東浦町立緒川小学校などを例に説明された。 自由研究学習や単元内自由進度学習を通じて、児童が学習環境との関わりで自律的に学ぶ姿が示された。 早修と拡充について、我が国の取り組みとしては拡充中心で十分に質の高い学びを実現できると述べられた。(個性化教育の簡潔な概説は『才能教育・2E教育概論』7章を参照。)

市川先生は、これまでの学校内外の拡充の取り組みとして、地域教育の活性化、学習成果を発表する場の設定・拡大(大会・コンテスト等)、および学校における探求活動の促進・評価について述べられた。 「学びのポイントラリー」や「学びんピック」等の学びの場を提供して地域教育を活性化できることや、活動を継続するための課題等も示された。今後の議論の方向性として以下の点を提案された。 ①教科学習や探究活動を話題の中心にしつつ、より広い活動分野を視野に入れて考える。②優れた才能をもつ児童生徒だけに限定せず、個に応じた学習支援の一環として捉える。③教員の負担増とならないよう、学校を取り巻く環境の整備・充実・活用を図る。

▼コメント

お二人共、前回の議論の方向と整合性のある方針でお話下さった。つまり、才能教育は在処・立ち位置として、通常学級での個別最適な学びをベースとして、特別支援教育や学校外の活動と連携して実施されるべきで、その具体的に可能な姿を例示された。全ての児童生徒の拡充を通じて、飛び抜けた才能も浮かび上がってくる。 「先取り学習」も、上位学年の単位修得という意味での「早修」と明確に区別して、発展学習や自由進度学習として「拡充」に含めることができる。拡充の在り方を検討するために、ノウハウが蓄積された実践は手がかりになる。

那須先生の個性化教育に関するお話では、単元内自由進度学習など一部だけの選択実施も可能で、教師が自分で準備するのは大変なら「個性化教育パッケージ」を教育産業が開発して利用するのも構わないとのお話だったが、学習材の玉石混淆や著作権等、問題が生じる恐れもあり、対策が必要になるかもしれない。

市川先生の地域教育のお話に関連して、一般に学校外の活動では子どもがその場で「楽しかった、自信がついた」と思うだけでなく、学習成果をICTを活用して発表して、他の子の動機づけに繋げられるのではないか。 これはSEMの「拡充三つ組モデル」のタイプⅢの拡充(成果発表)を持ち帰り、他の子のタイプⅠの拡充(興味をもてるテーマへの導入)に還元するという働きになる。地域を基盤として学校との新しい連携の在り方を探るという市川先生の観点は、SEMの構築の参考にもなる。

○特異な才能のある児童生徒のアンケート

今回の会議と同日、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」の事例を募るアンケートが文科省サイトの有識者会議のページに公開された。これについても前回の有識者会議の報道と同様、「ギフテッド」のアンケートが実施されると一部の新聞等で報道され、誤解が拡大される懸念がある。 しかしこのアンケートは、当該児童生徒をトップレベルの「異能」に限定するものではないし、またギフテッドと自称する困っている才能児(2E・GDF)の保護者等に回答者を特化するものではないことは、説明を読めば分かる。教師や学校外での支援者等からの幅広い回答も想定しているので、多様な才能と困難、多様な支援と問題の現状が浮かび上がってくることが期待される。