文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*「〈才能のある子の指導・支援〉に関する有識者会議」と個人的に略称する。「才能のある子」は、個別プログラムで識別された才能を基準に選抜・認定される狭義の「才能児」とは区別され、また「突出した才能」あるいは「困難を伴う才能児」に限定されない、広義の“gifted”に相当する。有識者会議でも、「特異な才能のある児童生徒」は、広い意味での才能のある子を指すことが「審議のまとめ(素案)」で確認された。
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
■ 第14回会議(2022.09.26)(会議資料)
○「審議のまとめ」について

前回会議での「審議のまとめ(素案)」をさらに修正した最終報告案「審議のまとめ(案)」の主な修正点が説明された。 会議として案が了承され、岩永座長から文科省初等中等教育局・藤原局長に「審議の審議のまとめ」が手交(手渡し)された。 その後、各委員よりこれまでの議論に関する感想や今後の取組に関する期待が述べられた。

▼コメント

以下に、私が会議で述べたコメントに文章を補って記す。

① 丁寧な説明

有識者会議の議論は、一般の人々にも教育委員会や教師にも誤解を生んできたし、今後も認識のズレは続くだろう。 「審議のまとめ」だけでは、才能に関わる概念や才能教育の背景を含めて、広く十分に理解されるよう説明し尽くせないので、今後も周知・研修の機会を捉えて、説明を続けることが必要だ。 その点、「はじめに」の末尾(p.3)に、「本「審議のまとめ」の考え方について、国の丁寧な説明を通じて共通理解を図った上で」と、また3(1)の註24(p.19)にも「今後引き続き、本有識者会議の考え方を丁寧に説明」、と言及されたのは有意義だ。 4(2)①(p.28)に、「有識者会議の議論・知見について参考資料にまとめるなど、学校や教育委員会に直接的な情報提供」とある。「参考資料を教員養成課程でも活用」ともある。 研修パッケージには必須の要素になるが、一般向けにもオンラインで広く情報提供して欲しい。

② ギフテッドと特異な才能

一般の認識とのズレは、そもそも「特異な才能」という用語に表れる。 一般で広く言われるのは「ギフテッド」であり、有識者会議では慎重に避けてきたのだが、報道では一貫して、「有識者会議はギフテッドについて議論してきて、文科省はギフテッドの支援に乗り出す」などと表現している。 「はじめに」の註1(p.1)にも記されたように、「ギフテッド」は「突出した才能」あるいは「障碍や才能による困難を伴う」という意味に限定して用いられることが多く、その文脈で何を指しているのかが曖昧で、その都度確認が必要になる。 結局、文科省の教育行政用語として「特異な才能」が採用されたが、それが「限定された意味のギフテッドの言い換えだ」と解釈されると、生じる問題は変わらない。 「特異」は「突出」「特別」ではなく、「特異な才能」は広い意味を表すということを念押しする必要が今後も続くだろう。

③ 特異な才能の定義と基準

「特異な才能」を特定の基準で定義しないと論じたことが、誤解や不安を招いてきた。 先生たちを始め、「特異な才能の定義、すなわち誰がそれをもつのか」を判別する基準を示して欲しいという声が上がる。 しかし、才能は多様な分野・種類・程度の特性なので、国が「IQ130以上」などと限定することは、様々な問題を引き起こす。 個別の取組の対象者について把握すべき才能特性は、目的に応じて個別に決まる。これは学校の入試と同じである。 個別の取組に相応しい特性をどうやって把握すべきかは、今後文科省が取り組む事業の情報集約・発信の課題となる。

④ 才能のある子にインクルーシブな個別最適・協働的な学び

才能のある子の指導・支援は、学校内で「個別最適な学びと協働的な学びの充実の一環」として行われ得ることが、十分に認識される必要がある。 障碍のある子も才能のある子もインクルーシブに、個に応じた指導が可能なことが、実証研究のモデルで示されると良い。 その実践に、例えば才能教育に起源をもつSEM(全校拡充モデル)の理念・方法が相通じることなどは殆ど認識されていないが、SEMの「拡充三つ組モデル」でICTの活用を拡げられる点も含めて、今後、周知・研修や実証研究を通じて、才能教育の背景の理解も実践に活かせるだろう。

⑤ 才能が原因の不登校

有識者会議には「困っている才能のある子」の保護者から高い関心が寄せられたが、不登校の問題について、才能による困難の要因は、従来、文科省でも教育委員会でも認識されてこなかった。 今後、障碍だけでなく才能を意識した綿密な調査が行われ、民間の機関・団体と学校・教育委員会の連携の実証研究から、支援が進むことを期待する。

以上のような点について今後、丁寧な説明が本当に有言実行されて、丁寧な実証研究、情報集約・発信を進めて、広く理解の推進と実践の展開を図ってほしい。

● 今後の文科省の取組

「審議のまとめ」の提出をもって、有識者会議は終了となった。 2023年度から文科省は、獲得した予算を原資に、才能のある子の指導・支援の取組を開始するはずだ。 有識者会議についての本サイトのコーナーはここで閉じるが、今後、本サイト内でコーナーを改めて、文科省の「周知」に関わる私的な情報発信を行える状況になれば幸いである。