文部科学省「特異な才能のある児童生徒の指導・支援」有識者会議

文部科学省の「才能のある子の指導・支援」有識者会議の進捗状況

【特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議】(2021年6月~2022年9月)
*ここでの情報は、文科省ウェブサイトに公開済みの会議資料と議事録、および当日報道関係者・一般傍聴可能な会議での発言のみに基づく。
*私のコメントは公開情報に対する私見であり、会議全体の合意や報告書に反映されない可能性もある。
*有識者会議の略称を今回から、及び過去に遡って、「才能教育」から「才能のある子の指導・支援」に改める(私の個人的呼称)。 「才能のある子」は、才能が識別されて個別プログラムで選抜される「才能児」とは区別され、また「突出した才能」あるいは「困難を伴う才能児」に限定されない、広義の“gifted”に相当する。 実質、有識者会議では対象をそう認識して議論されてきた。
■ 第10回会議(2022.05.13)(会議資料)

今回は、今年中に最終的に提出される「審議のまとめ」を視野に、「取り組むべき施策のイメージ(座長試案)」について議論された。 「審議のまとめ」は、昨年12月の「論点整理」を基に、その後の議論を踏まえて更新すべき内容を修正する。 事例部分は「添付資料」として移動され、まとめられる。

①資料1「審議のまとめ骨子(たたき台)」について

論点整理には次の旨が明記されていると、明記された。[以下、「特異な才能のある児童生徒」を「才能のある子」と略称。]
・才能のある子を含めた、多様な一人一人の児童生徒に応じた教育の在り方をいかに実現していくのかという議論の一環として、特に才能のある子の支援策を検討する。
・その際、学校現場が分断されたり、才能のある子が差別対象となったりしないよう留意する。
・何らかの特定の基準によって才能を定義することはしない。
 同骨子では、「取り組むべき施策」に、次の点が挙げられた。
(1) 基本的な考え方:これまでの議論を踏まえ、才能のある子が抱える学習上・生活上の困難に着目することや、これまで我が国の学校で才能のある子を念頭においた指導・支援の取組がほとんど行われておらず、有効な指導・支援策についての実証的な研究を行う必要がある旨について記述してはどうか。
(2) 具体的な提言:これまでの議論を踏まえ、取り組むべき具体的な施策を記述してはどうか。①学校内に関する施策。②学校外の機関等と連携した施策。

②資料2「取り組むべき施策のイメージ(座長試案)」について

「趣旨」の中に次の点が盛りこまれた。
・才能のある子は、その能力や特性がゆえに、学習活動上・学校生活上の困難を抱えることがある。
・個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として、学校外とも連携し、才能のある子に対してきめ細かな指導・支援を行っていく必要がある。
 そして取り組むべき施策として、次の4点にまとめられた。 (1)周知・研修の促進(学校、家庭・地域社会)、(2)環境の充実(学校)、(3)特性等の把握(見いだし)の支援(学校、学校外)、(4)学校外機関の情報集約・提供(学校外:大学、民間・NPO、教育支援センター)。
 さらに、才能のある子に対してどのような指導・支援が有効なのかを実証するための、多面的な「実証研究」に取り組むべきだとされた。

▼コメント

「取り組むべき施策のイメージ」について、私の発言に基づき再構成して述べる。

①施策に取り組む拠点の形成

取り組むべき施策として、上記の4点が挙げられた。これらの実施には、教育委員会等が母体となるはずだが、情報の集約・提供や支援を責任をもって行う拠点が設置されることが必要であり、その点が明記されるべきだ。 教育委員会等をハブとして、学校外の諸機関・団体も、例えば保護者支援団体と教育支援センターのように、相互に横の連携もできる体制作りが望まれる。

②支援者に才能のある子の支援の視点・知識が必要

「環境の充実」として、「学校内の教室以外で、安心して過ごせる居場所の充実」が挙げられているが、そういう場での「社会情緒的支援」も記されるべきだ。 「参考資料1」(p.7)に、学校の体制強化の必要性として、養護教諭・スクールカウンセラー等の支援職の充実が記載されている。 しかし困難を伴う才能のある子と向き合う人たちには、才能のある子の実態と支援の視点・知識をもつことが必要になる。 保健室やカウンセリングルームが居場所となるように、才能による困難を共感・理解して支援する人材の存在が必要だ。

③「特性等の把握(見いだし)の支援」について

特性等の「把握」という表記は、「見いだし」に代わって適切だろう。 「才能児の認定」とは区別でき、個別プログラムで才能行動・特性を明確に「識別」するだけでなく、全ての子どもの多様な種類・程度の特性を捉えることを示せる。 才能を一律に定義しないため、では教室で何を手がかりに才能特性を把握すればよいのか、教師は困惑する。 そこで「周知・研修の促進」の一環として、例えば「優れた能力、創造性、意欲・熱中を手がかりに才能行動・特性に気づける」といった緩やかな指針を出すことは可能だろう。
 個別の場面で有効な指導・支援の情報を集約・提供できる拠点の設置が、教育委員会等に望まれる。 個別の指導・支援の場面では一律の方法・ツールを推奨するのではなく、「実証研究」で、学校内外での実践の中から浮かび上がってきた有効な方法を集約して、具体的モデルを示すことで、教師を支援できる可能性がある。
 説明文の修正案:「子供たちに発現する特異な才能を示す行動・特性や、才能に伴う学習・社会情緒的困難の把握に対する支援、及びその拠点の形成」。 「才能に〈伴う〉学習・社会情緒的困難」は、概念上、才能特性に由来する困難(GDF)と、発達障害等の障碍による困難(2E)を含むが、両者未分化やラベル付けの問題もあり、支援上、集団を分離して考えるべきではないという意味合いをもつ。